『ドナルド・トランプ 世界最強のダークサイドスキル』常軌を逸したアメリカ大統領の「現代マキャベリズム思考法」

「憎まれっ子世にはばかる」ということわざがあるが、まさにこのことわざを体現している代表的な人物と言えるのがアメリカ大統領ドナルド・トランプ
どうしてあのような男に大国アメリカの大統領が務まるのかと思っている人は僕も含めたくさんいるだろう。

普段からトランプの言動に注目していたわけではないが、この前Twitter新型コロナウイルスのことを「Chinese Virus」と表現した時はさすがに「こいつヤベェ」と思ったし、思わず笑ってしまった。

そんな彼がどうしてアメリカ大統領として権力の座に居座ることができるのか。
適当なことを言っているように見えて実は人々の心に突き刺さる最強の悪のリーダーシップが潜んでいるのだと著者は言う。
常軌を逸した言動の数々に笑ってしまうこと間違いなしだ。

本書はリーダーシップを発揮しなければならない機械が増えてきた30代前後の会社員のような方にオススメできるかもしれない。
トランプのハチャメチャなやり方がきっと役に立つはずだ。

さて、トランプの常軌を逸した言動とはなんなのか。
堂々と嘘をつき続けろ!というタイトルから始まる第1章はトランプが巧みに?嘘をつきまくって支持者のハートをつかんでいることがわかるし、第2章ではトランプが自分のことを誰よりも優秀で、世界一偉いと思っていることがよくわかる。
本の終盤では、自分にとって利用価値のある者(国)に対してはとことんアメを渡し、思い通りに動かないヤツには徹底的にムチをたたく…というような政治のやり方をしていることがわかるだろう。

とにかくトランプは嘘をつく。
自分の利益のためであればどんな嘘でもつくような男なのだ。
そんなトランプの一面がよくわかる部分があるので引用する。

超富裕層を引き寄せるためにトランプは手段を選ばなかった。
イギリスのチャールズ皇太子とダイアナ妃がトランプタワーの部屋の購入を考えているという噂を、バロンという偽名を作って自分でマスコミに流した。
もちろん、根も葉もない嘘だが、英王室がコメントしなかったためお咎めを受けずに済んだ。

「ちょっとした誇張に害はない。それを俺は誠実な誇張(truthful hyperbole)と呼んでいる。」

ベストセラーになった1987年出版の『トランプ自伝』の中で、トランプは臆面もなくそう述べている。
どこが誠実なんだ!

……というか、それのどこが「ちょっとした」誇張なんだ!

しかし、トランプはただやみくもに嘘をついているわけではないようである。
著者によると、「ほら吹き理論(big mouth theory)という立派な理論に基づいているという。

そんな理論は聞いたことがない?そんなはずはないだろう。
「嘘も100回言えば真実になる」というあれだ。

なんだ、そんなことかと馬鹿にしてはいけない。

この理論はプロパガンダの天才と呼ばれたナチスドイツの悪名高き宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスが生み出したもので、今でもPRや心理学でも頻繁に使われている手法である。

もともとのドイツ語を直訳すると、「もしあなたが十分に大きな嘘を頻繁に繰り返せば、人々は最後にその嘘を信じるだろう」。
トランプはこれを誠実に(?)実行しているだけだ。

専門用語では「単純接触効果(mere exposure effect)」という。
広告のキャッチフレーズはその最たるもの。
単純なメッセージを何度も何度も聞かされているうちに私たち善良な市民の脳裏に焼き付いて、あなたも私も不要なモノまで買わされてしまう。
トランプは、選挙期間中にこの悪魔的手法で、まんまと共和党政治家と有権者を手玉にとったわけである。

有名な "Make America Great Again"(アメリカをふたたび偉大な国に!)がその代表格だ。
「古き良きアメリカを取り戻せ」という単純なスローガンが、厳しい経済状況に置かれた中西部や南部の白人ブルーカラーのような人々に特に受け入れられたのである。

そしてトランプはやられたら必ずやり返す。
決して屈しないのである。
トランプの話術はプロレスのようだと著者は言っている。
常に敵をつくって暴言で熱戦を演出する。
大統領選の共和党予備選ではトランプ流毒舌が炸裂したそうで、その中でも特に「ちんちん話」はおもしろい。
トランプの「ちんちん」の大きさが共和党大統領討論会の争点にまで発展してしまった(なぜそんな話になってしまったかはここでは割愛しよう)。

この本を読んでいると、「そんなことを言っていたのか!トランプむちゃくちゃだな!」と思うことが何度あったかわからないくらいにトランプの言動が本書にはちりばめられている。
でも、読み進めていくほどにトランプ流のダークサイドスキルに納得してしまうはずだ。
ぜひ本書を読んで自分のダークな部分を引き出してみてほしい。