『世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由』失敗から学ぶ厳選された倒産ストーリー!?

今日のビジネス本は「いかにして成功できたか」というような成功体験からなるものがほとんどであるが、この本はその逆をゆく失敗を集めたものである。

企業において最悪の失敗である「倒産」だが、著者である荒木氏は企業の成功事例よりも失敗事例から学ぶことの方が示唆深いと言う。
「売上増は七難隠す」という言葉があるように、売り上げが上がっているときには、失敗の要因につながるものがあっても全て水面下で隠れてしまうのだ。
それはやがて大きくなって水面上に現れる。
だから私たちは成功や成長しているときほど先人たちの失敗事例を通じて、その「水面下に潜む課題」について考える必要があるのだ。
だからこそ本書を読む意義がある。

荒木氏は、現在フライヤーというベンチャー企業や自身が創業した学びデザインという会社の経営に携わる傍ら、ビジネススクールの教壇に立ち、社会人学生と「経営戦略」という領域についての議論を重ねている人物である。
セオリーを教える立場でありながら、経営の現場ではそのセオリーの実践がいかに難しいかを感じている毎日だそう。

この本はそんな荒木氏が、私たちにとって親しみやすい企業を中心に、時代や業界、地域にもできるだけ多様性が出るように選定した25社の倒産ストーリーである。

それぞれ倒産した事例について「どういう企業だったのか」「なぜ倒産したのか」「どこで間違えたのか」「私たちは何を学ぶべきなのか」という項目に分かれていて私たちの普段の生活の中でも活用できる学びがある。

例えば「千代田生命保険」は私たちもついつい陥ってしまう思考で倒産してしまった歴史ある生命保険会社であった。

1904年に創業した千代田生命保険はこの年に勃発した日露戦争の戦死者に対してきっちり保険料を支払ったことで日本において生命保険を不可欠なものにした。

その後も幅広いネットワークを築き1930年にはトップ5で5割以上のシェアを占める生命保険になったのだ。
しかし、業界が徐々に過当競争になり存在感を落とし続けていた千代田生命保険は、「営業のドン」と呼ばれていたカリスマ的存在の神崎安太郎氏を社長に任命する。
この神崎氏による「高利率・高配当の商品を通じた積極的営業攻勢と、ハイリスク・ハイリターンの投融資先開拓」でいったんは生保内での順位を上げ、8大生保という大手カテゴリーのくくりに入ることに成功したもののその当時、世の中はバブル、それは一気に崩壊したのだった。

かつて大手だったにもかかわらず、今や中堅生保という立ち位置に甘んじ、さらにトップとの差が開いていく、ということに対する焦りと屈辱。
そして、目の前にはややリスクが高いけれど、競合が着手しておらずニーズのある攻め口があります。
「これをやれば一発逆転ができるかもしれない」と感じさせるバブル特有の空気も作用し、他社よりも少しでも先んじて意思決定を進めたい、という気持ちが芽生えたのでしょう。

このような状況になると、人間は「見たいものを見る」という状況になります。
「株価が下がるかもしれない」「貸し倒れになるかも知れない」という可能性は目に入らず、プラスシナリオの情報ばかりが目に入り、その思考は一層強化されていきます。

三者から見たら無謀に思えても本人からしてみれば合理的だと思い込んでしまうことはとてもよくあることだと思う。
こういう状態になってしまうと第三者からの意見を取り入れることは難しく、独りよがりの考え方になってしまうのだ。
自分の人生は自分で決めるものであるが、ときには千代田生命保険が陥った失敗をしないように、自分以外の新しいものの見方を取り入れたうえで、自分の考え方とバランスをとっていくことが重要ではないだろうか。

他にも魅力的な倒産ストーリーはたくさんある。
僕たちZ世代の記憶にも新しいピンク色のうさぎのCMで有名な英会話の「NOVA」はマネジメントが大雑把で規律が効かずに倒産したし、きっと幼少期に一度は行ったであろう「トイザらス」は、eコマース事業に出遅れ、アマゾンに任せてしまって倒産した。

かわいらしいイラストでの説明もあって、経営についてド素人な僕ののような人でも読みやすいように工夫がされている。
タイトルに「図鑑」とあるだけあってボリュームはあるが、倒産の仕方のジャンル分けもされているのでそれも気にならない。
仕事やプライベートでうまくいっているときにこそ、本棚から取り出してふと読み返したい一冊である。