僕たちはなぜ暇だと感じるのか、退屈とどう関わってきたのか『暇と退屈の倫理学』

某ウイルスの影響による外出自粛ムードが薄れてきてから実感としてだいぶ経つが、自粛期間中は「暇だ」「退屈している」と感じることが多かったのではないだろうか。

その影響もあるのか、「2022年 東大・京大で1番読まれた本」と目立つように帯に書かれている。

だから、暇と退屈が今までよりも身近に感じられる最近ならではの本かと思いきやそうではない。

この本の初版が発行されたのは2011年10月なので、もう10年以上読まれている良著であることがわかる。

そしてかなり哲学的な内容で難しい。しかし、「自分の疑問と向き合おう、自分で考えようという気持ちさえ持っていれば、最後まできちんと読み通せる」と著者が言う通り私のような哲学素人でも十分に読み進められるものになっていた。

これは著者が今までの人生の中で違和感を感じていた「何か」の答えを見つけるために書かれた本である。その「何か」とはなんなのかを考えながら読み進めていくことで良い体験が得られる本だと感じる。

暇や退屈に関連するもののひとつに「時間」があるだろう。

「バイト〇〇時までなのに暇だなー」「〇〇時まで家にいないといけないけど、退屈だ」というシチュエーションは想像できると思う。

「時間」は暇と退屈に深くかかわりがありそうだ。

我々の世界では、すべての生物が同じ時間と同じ空間を生きていると考えている。

しかし、この当たり前の事実をユクスキュルという理論生物学者は疑ったのだと著者はいう。

すべての生物がその中に置かれているような単一の世界など実は存在しない。すべての生物は別々の時間と空間を生きている!

この概念をユクスキュルは「環世界」と呼ぶ。

例にとった生物は「ダニ」である。ダニは哺乳類や人間の血を吸うが、その吸血のプロセスがユクスキュルの言う「環世界」を説明するうえで非常にわかりやすいものになっている。

ダニは哺乳類などから発する「酪酸」というにおいだけをシグナルにして、それが知覚されると吸血する獲物に飛び込んでいく。「この獲物は体が小さいな」だとか「これは人間だな」だとかは考えていない。

それまで飲まず食わずただじっと待っている。それがダニの「環世界」である。

どれだけ待てるのかわからないが、ユクスキュルいわく、とある研究所で18年間絶食しているダニが生きたまま保存されていたという。

そんなに長いあいだ、ひたすら酪酸のにおいを待つことは、人間にとっては驚きである。だが、ダニにとってそれが当然のことなのだとしたら?というのもダニは人間とはまったく異なる環世界を生きているのだ。ダニにとっては18年間など大した長さではないのだとしたら?

つまり、私たちとダニや他の生物とでは「時間」が異なっているのではないか、ということである・・・!

もしそうなのであれば、いったい「時間」とはなんなのであろうか。

詳細はぜひ本書を手にとって確かめてもらいたいが、価値観が新しく塗り変えられる1冊になること間違いなしである。