『LOONSHOTS ルーンショット クレイジーを最高のイノベーションにする』

「クレイジー」という言葉は普段あまりいい意味で使われることは少ない。
それなのにその「クレイジー」を「最高のイノベーションにする」というのだから、タイトルからかなり惹きつけられる本である。

クレイジーで誰からも相手にされないけれど世の中を変えるような画期的なアイデアのことを「LOONSHOTS(ルーンショット)」といい本書ではこのルーンショットがこれまでの歴史の中でどれだけ我々の生活を変えてきたのか、そしてどれだけ大事なことなのかを400ページ強にわたって説明されている。

誰からも相手にされないようなクレイジーなアイデアが、つぶれないで成功までたどり着くためには周りの人間(特に上層部)が大事になってくる。

だからこの本はそれなりに組織の中で上位にいる人たちに特に読んでもらうべきであると思う。

プロローグにはこの本のの内容があらかじめ説明されている。

ポイントはこの3つだ。

1 最も重要なブレークスルーは「ルーンショット」、すなわち誰からも相手にされない、一見ばかげたアイデアやプロジェクトから生まれる。

2 そうしたブレークスルーをテクノロジーや製品や戦略に転換するには、大規模な集団が必要である。

3 チームや企業など、何らかのミッションを持つ集団の行動に相転移の科学をあてはめることで、ルーンショットを素早く上手に育てるための実践的ルールが明らかになる。

この本は大きくPART1・2・3に分かれて構成されており、PART1では上記ポイント「1」にあるような一見ばかげたアイデアやプロジェクトから生まれたブレークスルーの具体例を紹介している。

PART2ではポイント2にある「大規模な集団」がなぜ必要なのかを「相転移」という科学を使った具体的な例(結婚、森林火災、テロリスト)を出して説明する。
相転移」とは、温度が変化するだけで液体が個体になるような突然の変化のことを指している。
この「相転移」をコントロールできればより革新的なチームや会社をつくることもできるのだ。

PART3では歴史的な観点からルーンショットを上手に育てていくことが最も重要であると述べられている。
中国とインドは紀元500年から1500年くらいまでの約1000年もの間、世界の経済を支配していた。
技術・軍事・政治分野の数多くの進歩は中国で最初に起きたにも関わらず、なぜ17世紀の科学革命や産業革命はヨーロッパで起きたのか。
そこにはルーンショットを育てる「ルーンショット養成所」の存在があったからこそなのである。

最後に、まだこの本を読もうかどうか迷っている人に、解説の冒頭部分を引用してダメ押ししたいと思う。

また、とてつもなく、とんでもない「イノベーション」の本がアメリカからやって来た。
サクッと読めば、「まあ、これまで言われてきたようなことに新しいキャッチフレーズなる『ルーンショット』をくっつけただけ」の本のように見える。
しかし、よく読み込んでいくと、これは単なるビジネス書にとどまらず、膨大な科学的・歴史的知識と国家論・産業論をベースにした「国家・社会の科学技術戦略のあり方を問うた」書であることがわかってくる。
しかも、この書物自身が著者の言うルーンショットでさえある。

この法政大学大学院教授・一橋大学名誉教授の米倉氏による解説もかなり読みごたえがある。
日本の企業向けにこの本からどのようなことを学ぶべきかを書いていたり、ルーンショットをどのように落とし込んでいくかをわかりやすく解説されているので最後まで楽しめる本である。

ぜひこの機会にじっくりと読み込んでほしい一冊だ。