センスメイキング

いま、本屋に行くと様々なビジネス本が置いてあるがその中でも、AIがわれわれの生活を脅かすとか、ビッグデータを駆使して世の中を知る、のような本がたくさんある。テクノロジー関連が現在もっともビジネスマンの関心事であるからであろう。僕はミーハーだからそんな意識の高いカッコいいビジネスマンが手に取った本を同じように僕も手に取ったりする。

 

そんな僕のことより今回紹介したいのは、そのような理系チックなビジネス書とは全く違った視点の主張をしている本である。理系の知識をつけるべきだ!というような主張の本が多い中、世の中を数字やモデルだけで捉えるのはやめるべきだ!とこの本は主張する。理系に固執していると、先の読めない「人」のあらゆる行動の変化に対して鈍感になってしまい、「人」の世界を感じ取る力を完全に失うことになるのだ。そして「人」にカッコをつけているのは「人」こそが本書のテーマだからである。

本書の副題(英語の原書)に「アルゴリズム」という言葉が入っているが、本書はアルゴリズムをテーマにしたものではない。コンピュータ・プログラミングでも機械学習の未来を描いた本でもない。本書のテーマは「人」である。もっと具体的に言えば、文化に光をあてたものであり、我々の時代の揺り戻しを描いた書籍である。 

 

本書では、アルゴリズム思考つまり数字やモデルだけでは解決できない問題もあることについて述べている。だから課題解決に頭を悩ませる経営者や、学生だったら何らかのサークルや団体のリーダーが読めば役立つ情報が得られるだろう。また、クリエイティブな仕事をしている人は新たなアイデアが浮かぶきっかけになるかもしれない。

 

さて、先の読めない「人」の世界を感じ取るためには文化的な洞察力が重要であると先ほど述べたが、具体的にどのようなことなのだろうか。そして、タイトルにあるセンスメイキングとはなんなのだろうか。

たとえば 皆さんもご存知のスターバックスは、まさにこの文化的な洞察力によって成功したのだという。

 35年前の北米のコーヒーといえば、昔からどの米国家庭にもある決まったブランドの豆を使った生ぬるいカップコーヒーくらいしかなかったそうだ。そこで同社に多大な功績をもたらしたハワード・シュルツ直感的にイタリアの言葉や文化に親しもうと思い立ち、イタリアで伝統的なカフェを学んでからスターバックスを立ち上げた。こうしてアメリカ人のニーズに応えてきたのである。

「人」を理解するのは簡単ではない。文字通り現実の世界に暮らす生身の人間を理解しようと思ったら、こうした文化的な知が必要だ。

(中略)

このように文化を調べ、全方位的に理解するには、我々の人間性をフルに活用しなければならない。自分自身の知性、精神、感覚を駆使して作業に当たらなければならない。特に重要なのは、他の文化について何か意味のあることを語る場合、自身の文化の土台となっている先入観や前提をほんの少し捨て去る必要がある。自分自身の一部を本気で捨て去れば、その分、まったくもって新しい何かが取り込まれる。洞察力も得られる。このような洞察力を育む行為を筆者は「センスメイキング」と呼んでいる。

 

 こうしたセンスメイキングをするには文学、歴史、哲学、美術、心理学、人類学……のような学問について知ることが大切なのである。これを人文科学の分野とされているのであるが、、、いや、自分で言っておいてなんだけどそんな難しく考えることはない。好きなクラシック音楽を聴くのもいいし、美術に興味を持つのもいい。やはり「人」が創ったものには「人」の心が感じられる。今日では、そういったものに触れることは無駄なことであるとされる世の中になってきているけれども、本当に重要なものとはそういうことなのである。なぜなら、我々は「人」と生活して社会を創り上げているのだから。

そして著者は「人は何のために存在するのか」という問いかけに明白な答えを持っている。

「人は、意味をつくり出し、意味を解釈するために存在するのだ」

そしてこの人文科学の分野は、こうした活動のための理想的なトレーニングの場になるのだ。2000年以上に及ぶ素材を活動の場として提供してくれるし、人文科学の作品は喜びや楽しみをもたらしてくれる。

こうしたスキルは、まさにセンスメイキングの中核をなすものであり、よそからの借り物で済ませられないスキルである。機械学習が、こうしたスキルについて洞察を得ることはない。スキルには、ものをみる構図が必要であるが、アルゴリズムには単に視点がないからだ。

ブラームスを聴くもよし、ミシシッピデルタブルースの偉大なシンガー、サン・ハウスのシンプルにして実にソウルフルな音楽を通じて1930年代に思いを馳せるもよし、シルヴィア・プラスの詩集をじっくりと味わうもよし。こういう活動を通じて、ベンチャー企業や社会事業の立ち上げ、あるいは今のポジションの充実につながる分析力を鍛えることになるのだ。それに、楽しく実行できるうえに、何といっても「真実に即している」。

 

この本を読んでぜひ新たな文化に興味を持つきっかけになったりしてもらいたい。

ぼくも「そんなことやってても意味ないじゃん」と周りから言われるようなこと

をやってこれから先のなにかにつながればいいなあ、と改めて思ったりした。

ぜひ手にとってじっくりと読んでみてほしい。

 

 

 

センスメイキング

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