人工知能の核心

将棋の羽生善治九段が先月23日に行われた対局に勝って通算1433勝となり、歴代最多勝利記録に並んだ。前記録保持者よりも21歳若く、この数字に到達しているから凄まじい記録であることがわかる。

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これは、そんな羽生さんがNHKスペシャルでの取材を通して人工知能の核心に迫る本だ。

 

「アハ体験」でおなじみ脳科学者の茂木健一郎氏はこの本をこう評している。

これは、名著である。

まず、羽生善治さんの人工知能についてのユニークな分析、洞察がある。時にテクニカルな細部にわたり、興味深い。しかも、随所に、オリジナルに発想がある。研究者ならば、プロジェクトの「種」のようなものを拾うことができるだろう。

 

羽生さんは将棋だけでなく様々なことに造詣が深いことも知れる本だ。そのさまざまな視点から人工知能を解説していってくれるので、とてもわかりやすい。人工知能の入門書として読むのもいいのではないかと思う。

 

将棋というものは、相手が指す手を読まなければならない。羽生さんは30分〜1時間程度で1000手先まで読むときもあるらしい。

棋士は対局のとき、大まかに3つのプロセスで将棋を考える。

まずは「直感」。これは今までの経験や学習の集大成が瞬間的に現れたもので、この直感をもとに平均80通りあるひとつの局面からパッと2.3手に絞っていく。

次は「読み」。相手の先の手を予想してシミュレーションしていく作業だ。しかし、指し手の可能性は掛け算で増えていき、膨大な数の可能性を考えなくてはならなくなるので人間にとってこれは現実的ではない。

そこで3つ目の「大局観」だ。具体的な一手から離れ、全体を見ることが極意だという。そして序盤から終盤までの流れを総括して、先の戦略を考えるのだ。この部分はこれまでの対局の経験値が活かせるので羽生さんは若い頃と比べて「大局観」に力を傾ける比率が高まったそうだ。

対して人工知能はというと、超大な計算力で「読み」を行い「評価関数」といわれる、その局面の形勢を評価するアルゴリズムを使って最善の一手を選ぶ。このような人間と人工知能の違いについて羽生さんはこう主張している。

 ここで人間にあって人工知能にはないのが、、手を「大体、こんな感じ」で絞るプロセスです。棋士の場合には、それを「美意識」で行っていますが、人工知能にはどうもこの「美意識」にあたるものが存在しないようです。

それは一体、なぜでしょうか。

私はその理由は、人工知能に「恐怖心がない」ことと関係していると考えています。

第一章でも少し触れましたが、人工知能はただただ過去のデータにもとづいて、最適解を計算してきます。そのため、人間の思考の盲点になるような手を「怖いもの知らず」で平然と突いてきます。そんな危険な手をなぜ選ぶのかと驚くことさえあります。

こういう、人間の思考の死角や盲点のようなものは、どうも私には、防衛本能や生存本能に由来しているように思えてなりません。人間は、生き延びていくために、危険な選択や考え方を自然に思考から排除してしまう習性があるような気がします。

(中略)

私は、人工知能が恐怖心を覚えるようになったときが、本当の恐怖かもしれません」と冗談めかして言うことがあるのですが、それは人間にとっても得体の知れないものになるからです。

羽生さんは人工知能がこれからもどんどん強くなっていくことを否定することなく、これからの人工知能のあり方を見据えていることがわかる。

 

ところで、羽生さんは対局時の寝癖がトレードマークなので対局を見る機会があれば是非注目してほしい。将棋が強くてお茶目だなんて世の女性のハートをわしづかみしているじゃないか!

……でも結婚して奥さんがいるし基本的に弟子はとらない主義らしい(笑)

 

まだバリバリの現役なのでこれからも記録を更新し続けて、将棋界を盛り上げてくれることだろう。期待して羽生さんの将棋と寝癖に注目していきたい。

 

 

人工知能の核心 (NHK出版新書 511)

人工知能の核心 (NHK出版新書 511)